学部紹介

白水先生の長野県栄村レポート2
 ~法学部 白水 智 教授の研究活動~

2017年1月

雪が2メートル超!

国内研修もあと残りあと2ヶ月。滞在している長野県栄村秋山地区は、今、2メートル30センチの雪に埋もれてします。関東では想像できない状況です。

積雪の様子
【夏冬比較はこんな感じ(滞在している宿舎の窓から隣の小学校を見る)】

豪雪地として知られた栄村ですが、この雪の中の生活を実際に体験することが今年度の1つの目的でした。大学のある千葉県で2メートル超の雪が積もったら、全ての生活は完全に麻痺すると思いますが、ここ栄村では皆さん普通に生活をしています。

積雪の様子
【雪に埋もれた宿舎】

積雪2メートル30センチと聞けば、何だそれは!と驚かれると思いますが、実はこれ、平年並みなのです。今季は1月に入ってからも非常に雪が少なくて、10日までは50センチほどしかありませんでしたが、中旬から連日のように激しい降雪があり、1週間で2メートル近くも積雪量が増え、ようやく平年並みに追いついた感じです。
もちろんもっとずっと多い年もよくありますし、11年前には4メートルを超えた年もありました。

栄村の玄関口に当たるJR森宮野原駅前には、JR駅構内としての国内最高積雪記録を示す標柱が立っています。それによると終戦の年である1945年に、何と7メートル85センチを記録しているのです。それから比べれば、今年の雪は「いつも通り」に過ぎません。

「豪雪観」の違い

この他地方との「豪雪観」の違いについては、面白い話があります。

11年前の豪雪のとき、テレビ各局は秋山地区のことを「山間の集落孤立!」とトップニュースで連日報道しました。確かに下界に下りる道路は雪で寸断され、雪崩の危険もあって通行止めとなり、10日ほど全面的に往き来ができなくなりました。現地に入ることもできない報道陣は、秋山地区の民宿などに電話取材をしました。

その取材を受けた民宿の女将さんの話です。
「大雪で大変ですね!食料など困っているのではないですか?」と聞かれるので、「もう大変です」とは答えたものの、実は電話をしている目の前では、お年寄りたちがいつもの冬と同じく、お互いの家を訪問しては、楽しく茶飲み話をしていた、というのです。
当地には「お茶呑み」という習慣があり、農業や他の仕事ができない冬には、自慢の漬物などをもって近所の家を訪問し、一緒にお茶を飲みながらストーブやこたつにあたりつつ、楽しく世間話をする、というのが恒例です。このときも、「大変です」と答えた目の前は、楽しいお茶呑みの最中だったそうです。

それでも「大変です」と答えたのには、わけがあります。「せっかく取材して、大変でしょう!と言ってくれているので、悪いと思って、大変です!と答えた」というのです。
その後、ようやく通行止めが解除されて下界に下りられるようになったとき、途中から車に乗り込んで同乗取材をさせてほしいとマスコミに頼まれたそうです。このときも、女将は「お客さんがいるわけでもないのに、せっかく取材に来ていてかわいそうだったから、要らないお肉などをたくさん買い込んでしまった」というのです。「食料に困っている」様子を取材したいマスコミの期待を裏切らないように、気を遣って余計な買物をしたそうです。

毎年冬になると下界との交通が途絶えるのが当たり前だった秋山地区では、昔から山菜やキノコ、獣肉など山で採れる食料を保存食にして貯えてきました。もちろん薪などの燃料も充分貯えてきたのです。雪中生活への備えは万全にしておくのが恒例でした。

マスコミの多くは平野部中心、さらにいえば東京中心の報道機関です。何か事件があると、「それが東京で起きたら」という発想をしがちです。確かに東京圏が2メートル超えの豪雪に見舞われたら、全てが麻痺してとんでもないことになるでしょう。食料も燃料も尽きて、大混乱になるに違いありません。
しかし秋山では(もちろん車社会、石油社会の今は困る部分もありますが)、普通に生活が成り立つのです。それぞれの地域には地域なりの生活の知恵や技術があり、またものの見方も異なるのです。

雪中生活実体験

まず「こんな密度で降る雪があるんだ」、という体験をしました。激しい降雪の中では、車の運転も大変でした。どこまでが道路か、一面真っ白で道路の端がわからないのです。一つ間違えば崖下に転落です。

積雪の様子
【密度の濃い雪で、前もよく見えず、道路の幅もわからない!】

また、雪が止むと、今度は落雪や雪崩の危険がやってきます。道路に張り出したたくさんの木の上には、雪の塊が乗っています。氷の塊となった、いわば石のようなものが車に落ちてくるわけです。これが無数にあるのですから、恐ろしいことこのうえない。
また、気温が上がって雪が緩むと、斜面の雪が崩れてきます。いわゆる雪崩です。小規模な雪崩はあちこちで起き、車の行く手が塞がれたら、少しの場合はスコップで掘って自力で突破しなければなりません。だから、当地の皆さんは車にかならずスコップを積んでいます。大きな崩れの場合は、役所などに連絡して除雪車に来てもらわなければ抜け出せません。もちろん車が直接雪崩に巻き込まれる危険もあります。雪崩の頻発する危険地帯にはスノーシェッドと呼ばれる覆いや雪崩防止の柵があったりしますが、それがない場所もたくさんあります。柵があっても、そこから溢れた雪が落ちてくることもあります。何より雪が固められた路面は、滑ります。

積雪の様子
【木の枝からの落雪はコワイ!】

下り坂はとくにコントロールが難しく、スピードを出せないのはもちろん、安易にブレーキを踏もうものなら、スケート選手のループのように、車が簡単に回転してしまいます。そうなったら、もうお手上げです。何をしてもムダ。急なカーブや下り坂では、エンジンブレーキを使ってノロノロと慎重に走らないといけません。

このような雪の中で、あと2ヶ月をどのように過ごすか、いろいろ思案中です。こちらにいなければできないことをしたいと考えています。
今年度、景観の観察や古文書整理などはかなりやりましたが、お年寄りからの聞き取りがまだ不充分です。この雪の期間に、なるべく古老から昔の話を発掘したいと思っています。

積雪の様子
【雪の合間の晴れは、本当にキレイです!】

雪の大変さのことばかり書きましたが、雪がなくてはできない、雪がないと困ることも実はいろいろあります。それこそが豪雪地の文化でもあります。

それについては、4月にまた大学に復帰したら、授業の中などで話をしていきたいと思います。

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  • 前回の「長野県栄村レポート」はこちら(2016年9月掲載)