2023.03.06 (月)INFORMATION在学生の方TOPページ掲載

退任の先生方からのご挨拶

2022年度をもって退職される先生方よりメッセージをいただきましたので、ご紹介いたします。

法学部 市川 仁 先生
現代教養学部 中島 純一 先生
現代教養学部 望月 哲男 先生

法学部 市川 仁 先生

法学部 市川 仁先生は、イギリス文学やイギリス文化を専門としており、「総合英語Ⅰ、総合英語Ⅱ」の講義を担当されていました。「D.H.ロレンスの思想、イギリス文化」を研究テーマとし、イギリス文学やD.Hロレンスに関する本や論文などを発表されています。また、2018年から2022年には学長を務められました。

市川先生①

退任のご挨拶
法学部 教授 市川 仁
研究室の本棚からは本が消え、いつから居場所を決めたのか分からないような物や、これまでの年月を語るかのように黄ばんだ書類も姿を消して、机の上もこのノートパソコンひとつだけとなりました。すべてを洗い流してさっぱりとしたすがすがしさを感じさせると同時に、がらんとした空間が、この部屋に初めて入った30年近く前を彷彿させ、あらためて机に向かわせるような妙な気持ちを起こさせます。
この部屋に来たのは1994年のことでしたが、それまでは同じ法人の中央商科短期大学に籍を置いていました。短期大学は、夕方6時から授業が開始される夜間部だけの短期大学で、一棟の校舎が、わずか200坪ほどの敷地に、場所は違うものの創立時の様子を伝える生き証人であるかのように建っていました。残念なことに廃止されてしまいましたが、新入生合宿や大学祭などの行事も教職員総出でにぎやかでした。大都会の一角にある、あれほどユニークな短期大学は日本全国を探しても例がなかったのではないかと思います。大学教員の通過儀礼のような10年間でした。近くの隅田川沿いには「中央商業学校発祥の地」の石碑が建ち、学校法人中央学院の歴史を伝えています。
法学部に移ってからのおよそ30年間も、振り返ってみればあっという間のできごとでした。ただ、その瞬時の間隙をたどってゆくと、忘れていたあまりにも多くの思い出が、際限もなく記憶の渕から浮かび上がってきます。そこでは、多くの学生の皆さんや教職員の方々との出会いがあり、そして、その出会いのひとつひとつが力となってこれまでの自分の人生を築き上げてきてくれたのだと、つくづくと感じています。
教員生活の最後の4年間は、学長という立場でコロナ禍に翻弄されて様々な対応を迫られました。それでも、何とか乗り越えられたのも、やはりあの力のおかげだったのではないかと思っています。ただ、多くの教職員が大学をもっともっと良くしていこうという共通認識をもっていることが分かっていたにもかかわらず、その力を生かし切れなかったことについて、コロナ禍にあったとはいえ、内心忸怩たる思いを感じていますが、今また、課題を克服しながら新たな道を歩み始めている大学には心からの期待を寄せています。
最後にあらためて感謝の念を申し上げる次第です。

 

現代教養学部 中島 純一 先生

現代教養学部 中島 純一 先生は、コミュニケーションやメディアコミュニケーションを専門としており、「私たちの生活とコミュニケーション」「メディアコミュニケーション論」「メディア文化論」の講義を担当されていました。「ネット社会におけるコミュニケーション行動の変容と心理 」を研究テーマとし、メディアやコミュニケーションに関する本を刊行されました。

中島純一②

退任のご挨拶
現代教養学部 特任教授 中島 純一
この度、現代教養学部を退任することになりました。この間、多くの教職員、関係者の皆さま方に、大変お世話になりましたこと、心より感謝申し上げます。
平成29年春に、現代教養学部誕生と同時に赴任致しました。新しい学部の創設ということで、赴任する教員もサポートする事務の方々も一つの輪になって、熱気あふれる雰囲気の中でスタートしました。学部教授会も、まるで学科会議のような少人数の中で、アットホームで和気藹々と行われていたことが懐かしく思い起こされます。私にとりましても、新設学部・学科づくりに携わったのは、長い教員生活の中で3度目となりましたが、最後の勤務先となりました中央学院大学での新設学部づくりに参画できたことは、特に心に残るものとなりました。
大学創立50周年事業の一環として、「現代を生き抜く教養を身につけ、世の中で必要とされるジェネラリストを育てることを目的」とした本学部創設の趣旨は、今日のような先の読めない不確実なVUCAの時代を迎えて、答えのない問いかけに対処しうる現代的なジェネラリストの育成をめざす、まさに新たな時代を見据えた先見性の高いチャレンジであったかと思います。
利根川をはさんで秋には稲穂が一斉に黄色い絨毯のように広がり、はるか後方に筑波山を望む雄大な景観に包まれた本学の立地は、都心へのアクセスも良く、教育環境として素晴らしい地にあります。このような恵まれた環境に加えて、中規模な本学ならではの伝統的な丁寧かつ大らかなコミュニケーションは、学生への優しいまなざしを伴う学生ファーストのカラーを醸し出しています。私自身も、この丁寧で大らかに接するまなざしの中で、最後の教員生活を送れたことは、幸せであったと感謝しております。
最後になりましたが、これまで本学部をサポートして頂いた教職員の皆さま、学生・卒業生、ご父兄の皆さま方には、心より御礼申し上げます。同時に、これからの中央学院大学の益々の発展と、皆さま方のご健康とご活躍をお祈りしております。

 

現代教養学部 望月 哲男 先生

現代教養学部 望月 哲男先生は、ロシアの文学・文化・思想を専門分野としており、「スラヴの社会と文化」「文化学概論」「比較文化論」の講義を担当されていました。科学研究費基盤研究を取得され、「『超越性』と『生』との接続:近現代ロシア思想史の批判的再構築に向けて」、「 危機と再生のヴィジョン:ドストエフスキー文学の世界性をめぐる超域的研究 」の研究を行っています。また、2015年から2021年には、トルストイ『戦争と平和』(全6巻)の新訳を公刊されました。

望月先生②修正

トルストイの小説の翻訳について・退任のご挨拶
現代教養学部 特任教授 望月哲男
光文社古典新訳文庫シリーズで担当したトルストイ『戦争と平和』の翻訳が、2021年9月に出版完了しました。2015年に始めたもので、自分の翻訳経験中もっとも長い作業になりました。
本作はトルストイの30歳代後半の長編で、ヨーロッパ統一を狙う皇帝ナポレオンのフランスに対するロシア帝国の戦いを描いています。1805年のアウステルリッツ(現チェコ)における仏墺露の三帝会戦と、1812年のナポレオンのモスクワ遠征(ロシア祖国戦争)が二つの山になりますが、トルストイは戦争の場と同時代のロシア社会とを複眼的に描いています。
プライド合戦にかまける将軍たち、現場に出て足手まといになるロシア皇帝、無我夢中で戦う兵士たち、遺産争奪・政略結婚・賭け事や狩猟に血道をあげる貴族たち、街を焼かれて呆然とする住民、略奪者、暴徒――いずれも大事なキャラクターで、諸国民からなる550名以上の人物が大小の役を担って登場します。
トルストイが白い手をした傲慢な人間を軽蔑し、純朴で度量の広い(しばしば肥った)人物を好むのもよくわかりますし、戦場では誰一人正しい状況を把握している者はいない、侵略戦争は人間理性にもとる大犯罪である、といった一連の主張も明快です。
トルストイの作品ではこれまで、死や性的欲望への向き合い方を正面から扱った後期の中編『イワン・イリイチの死』と『クロイツェル・ソナタ』、貴族社会の不倫を扱った中期の長編『アンナ・カレーニナ』を訳しました。いずれもテーマの深さと構成の妙で際立った作品ですが、一番初期にあたる『戦争と平和』には、テーマや構成というよりも、ある時代の人間の営みを全部詰め込んでしまおうという痛快な意気込みを感じました。
本学に勤めて5年、教室でロシア文学に触れたのは「スラヴの社会と文化」という講義のごく一部だけでしたが、文学作品や表現の問題に関心を持つ学生と話すのは、いつも楽しい経験でした。
本学での仕事は今年度で最後になりますが、また別の形でお付き合いできたらと願っております。
<お問い合わせ先>
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電話:04-7183-6517