スペインにおける闘牛の現在地―動物の権利保護と伝統文化の相剋

研究の概要

スペインにおける闘牛の現在地―動物の権利保護と伝統文化の相剋

日本でも動物を使った地域の伝統行事が動物愛護の観点から批判にさらされることが少なくない昨今、スペインでは動物の権利保護と闘牛文化の振興との間で衝突が生じ、地域によっては法的に禁止か若しくは禁止されないまでも実施に至らない事例が散見される。これらを素材として日本にはない新たな知見を獲得することを目的とする。

プロジェクト研究「スペインにおける闘牛の現在地―動物の権利保護と伝統文化の相剋」について

本プロジェクト研究は、スペインの闘牛を素材として、動物の権利保護と文化の振興との衝突が現在どのような状況にあり、今後どう対応しようとしているのかを分析することで、日本において社会的関心の低い動物の権利保護問題に対して新たな視点を提供することを目的としています。
スペインでは、同国初の「闘牛禁止法」が1991年にカナリア諸島自治州で成立し、2007年には国営放送が闘牛の中継を取りやめ、2010年にはカタルーニャ自治州でカナリアに続き国内2例目の「闘牛禁止法」が成立し、2011年以降、同州で闘牛は実施されていません。さらに、カタルーニャの事例では、同法の違憲性を憲法裁判所で争ったこともあります。また、スペインを代表する闘牛場の一つであるセビリアのレアル・マエストランサ闘牛場が、闘牛文化の振興を目的としてチケットを持つ親同伴の子供1人の入場を無料とする措置をとったところ、今度は子供に対して動物を殺す(残虐な)シーンを見せることが文化を体験させることになるのかと批判の声があがったことからも分かるように、スペインを象徴する観光資源(興行)の一つである闘牛であったとしても、スペインが動物の権利保護に関して長い歴史を持つヨーロッパに位置していることも相まって、近年はとりわけ批判にさらされています。
日本国内において本プロジェクト研究のテーマは、これまで人文科学的な観点から考察されることが多く社会科学的な切り口からの研究された例は少なく、法学研究に至っては皆無です。したがって、中央学院大学社会システム研究所がこれまでおこなってきた地域をターゲットにした研究の特色にも合致するだけではなく、スペイン研究というこれまでになかった新たな研究窓口を創設する契機ともなることを期待するものです。

2025年6月 
研究代表 野口健格(中央学院大学法学部准教授)