CGU NEWS
2025.03.24
現代教養学部
「第3回現代教養学部研究発表会」開催報告
【発表者】黒川知文 教授
論題:「ウクライナ侵攻とロシア正教」
【要旨】
本発表では、なぜキリスト教国のロシアがウクライナを侵攻したのか、宗教史学の立場から論じた。聖書は概して絶対的平和の立場である。戦争の原因は人の罪であり、神が平和をもたらすが、キリスト教史では聖戦論や正戦論が実行されてきた。ロシアとウクライナは共に東方正教会に属するが、問題の核心は以下の3点にある。1)東方正教会は国別に分立し相互批判(内政干渉)を避ける傾向がある。2)東方正教会には「ビザンチンハーモニー(皇帝教皇主義)」の体制があり、礼拝の最後には為政者(ロシアではプーチン)への祈りがある。国家指導者によるウクライナ侵攻を、宗教指導者である総主教が支持する所以である。3)「第三ローマ理念」に基づく宗教的覇権主義がプーチンの「ルースキー・ミール(ロシア人、ウクライナ人、ベラルーシ人による国家)」構想の背景にあるが、この歴史観は誤りで、ウクライナとロシアは過去に3度戦争を経験している。この紛争は、長期化し深刻化する(2022年10月にすでに発表した考察)と結論づけられる。
本発表では、なぜキリスト教国のロシアがウクライナを侵攻したのか、宗教史学の立場から論じた。聖書は概して絶対的平和の立場である。戦争の原因は人の罪であり、神が平和をもたらすが、キリスト教史では聖戦論や正戦論が実行されてきた。ロシアとウクライナは共に東方正教会に属するが、問題の核心は以下の3点にある。1)東方正教会は国別に分立し相互批判(内政干渉)を避ける傾向がある。2)東方正教会には「ビザンチンハーモニー(皇帝教皇主義)」の体制があり、礼拝の最後には為政者(ロシアではプーチン)への祈りがある。国家指導者によるウクライナ侵攻を、宗教指導者である総主教が支持する所以である。3)「第三ローマ理念」に基づく宗教的覇権主義がプーチンの「ルースキー・ミール(ロシア人、ウクライナ人、ベラルーシ人による国家)」構想の背景にあるが、この歴史観は誤りで、ウクライナとロシアは過去に3度戦争を経験している。この紛争は、長期化し深刻化する(2022年10月にすでに発表した考察)と結論づけられる。
【発表者】神岡 理恵子 講師
論題:「現代ロシア文化と“宗教右派”~ロシア版“文化戦争”の20年」
【要旨】
ロシアのウクライナへの侵攻は唐突で大きな衝撃をもたらしたが、文化研究の視点から振り返ると、過去20年ほどで徐々に醸成されてきた“文化戦争”的な状況が、このような結果に行きついてしまったことこそが衝撃であった。ソ連崩壊後は信仰や表現も自由となったはずだったが、2000年代に入ると表現の自由をめぐる裁判がしばしば起き、LGBTの活動なども妨害されるようになる。とりわけ「正教旗手連合」のような民間の極右的な宗教組織が影響力をもつようになった。本発表では、注目されたいくつかの裁判事例や、政権批判的なアーティストや作品、愛国・極右的なグループの活動を例に、“文化戦争”的な一面を考察した。“文化戦争”はあくまで欧米で起きている“惨事”であり(“分断”や移民問題なども同様)、ロシアではメディア等でも特別語られることはないというレトリック、戦略に留意することが重要である。
ロシアのウクライナへの侵攻は唐突で大きな衝撃をもたらしたが、文化研究の視点から振り返ると、過去20年ほどで徐々に醸成されてきた“文化戦争”的な状況が、このような結果に行きついてしまったことこそが衝撃であった。ソ連崩壊後は信仰や表現も自由となったはずだったが、2000年代に入ると表現の自由をめぐる裁判がしばしば起き、LGBTの活動なども妨害されるようになる。とりわけ「正教旗手連合」のような民間の極右的な宗教組織が影響力をもつようになった。本発表では、注目されたいくつかの裁判事例や、政権批判的なアーティストや作品、愛国・極右的なグループの活動を例に、“文化戦争”的な一面を考察した。“文化戦争”はあくまで欧米で起きている“惨事”であり(“分断”や移民問題なども同様)、ロシアではメディア等でも特別語られることはないというレトリック、戦略に留意することが重要である。
今回の研究会は、ちょうど連日ニュースで取り上げられている停戦交渉のさなかに開催されたため、停戦と和平の行方を注視していきたいと思います。