CGU NEWS
2025.03.24
現代教養学部

「第3回現代教養学部研究発表会」開催報告

3月7日(水)、現代教養学部学術委員会主催による「現代教養学部研究発表会」が開催されました。この発表会は、現代教養学部における教育・研究の一層の充実と深化を図ることを目的とするもので、今年で3回目となりました。今回は、4年目に突入した「ロシアによるウクライナ侵攻」を改めて考える機会となり、各発表後には質疑応答も活発に行われ、有意義な研究発表会となりました。(現代教養学部学術委員会)

【発表者】黒川知文 教授
論題:「ウクライナ侵攻とロシア正教」
【要旨】
本発表では、なぜキリスト教国のロシアがウクライナを侵攻したのか、宗教史学の立場から論じた。聖書は概して絶対的平和の立場である。戦争の原因は人の罪であり、神が平和をもたらすが、キリスト教史では聖戦論や正戦論が実行されてきた。ロシアとウクライナは共に東方正教会に属するが、問題の核心は以下の3点にある。1)東方正教会は国別に分立し相互批判(内政干渉)を避ける傾向がある。2)東方正教会には「ビザンチンハーモニー(皇帝教皇主義)」の体制があり、礼拝の最後には為政者(ロシアではプーチン)への祈りがある。国家指導者によるウクライナ侵攻を、宗教指導者である総主教が支持する所以である。3)「第三ローマ理念」に基づく宗教的覇権主義がプーチンの「ルースキー・ミール(ロシア人、ウクライナ人、ベラルーシ人による国家)」構想の背景にあるが、この歴史観は誤りで、ウクライナとロシアは過去に3度戦争を経験している。この紛争は、長期化し深刻化する(2022年10月にすでに発表した考察)と結論づけられる。
現代教養学部研究発表会①黒川 知文 教授
黒川教授は、まずこれまでの研究活動を説明された後、なぜキリスト教国のロシアがウクライナに侵攻したのかについて、宗教史学の立場から論じられました。多くの方々が持つこの疑問に、聖書のことばや豊富な画像を用いて説明してくださいました。このほかクイズや、先生がニュース解説で出演されたテレビ番組の映像を交えてお話されたので、印象に残るエピソードがたくさんあり、現在の争いを宗教的な視点で改めて考え直すきっかけとなりました。
 
【発表者】神岡 理恵子 講師
論題:「現代ロシア文化と“宗教右派”~ロシア版“文化戦争”の20年」
【要旨】
ロシアのウクライナへの侵攻は唐突で大きな衝撃をもたらしたが、文化研究の視点から振り返ると、過去20年ほどで徐々に醸成されてきた“文化戦争”的な状況が、このような結果に行きついてしまったことこそが衝撃であった。ソ連崩壊後は信仰や表現も自由となったはずだったが、2000年代に入ると表現の自由をめぐる裁判がしばしば起き、LGBTの活動なども妨害されるようになる。とりわけ「正教旗手連合」のような民間の極右的な宗教組織が影響力をもつようになった。本発表では、注目されたいくつかの裁判事例や、政権批判的なアーティストや作品、愛国・極右的なグループの活動を例に、“文化戦争”的な一面を考察した。“文化戦争”はあくまで欧米で起きている“惨事”であり(“分断”や移民問題なども同様)、ロシアではメディア等でも特別語られることはないというレトリック、戦略に留意することが重要である。
現代教養学部研究発表会④神岡 理恵子 講師の発表
神岡講師の報告は、1)テーマへの関心と研究経緯、2)ロシアの“宗教右派”とは? 3)“宗教右派”が関与する芸術・文化における裁判の具体的な事例、4)まとめ…ロシアメディアのレトリックと“文化戦争”という構成で行われ、普段あまり知られることがないロシアの文化状況について触れる機会となりました。政権と癒着する教会と、それに異議申し立てする芸術表現のあり方は、黒川教授のお話を踏まえると腑に落ちる点もありました。ソ連時代のサブカルチャーから登場した一方、のちに右傾化した「ナイト・ウルヴズ」のような組織の話には、質疑応答でも盛り上がり、モンゴルの類似例やタタールのイスラム圏での事例など、興味深い指摘もありました。


今回の研究会は、ちょうど連日ニュースで取り上げられている停戦交渉のさなかに開催されたため、停戦と和平の行方を注視していきたいと思います。
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部署:企画課
電話:04-7183-6517