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2024.11.11
法学部

「第18回法学部研究発表会」開催報告

10月30日(水)、「第18回法学部研究発表会」にて東洋大学法学部(前・本学法学部教員)の柴田 彬史 専任講師と本学法学部の清水 正博 教授による研究発表が行われました。
発表者と題目、発表要旨は以下の通りです。

【発表者1】東洋大学法学部(前・本学法学部教員)柴田 彬史 専任講師

題目:アメリカ信託法におけるTrust as an Entityの考えの動向について

信託の母法たる英米法における信託は概して2つの特徴がある。受託者が信託財産について権原を有すること、および、受託者は当該権原を受益者のために使うことである。
ところがアメリカ信託法の下では、これらの2つの点に影響を及ぼしうる考え方が登場している。信託を、信託財産(総体)から構成される法"主体"(Trust as an entity)と捉える考え方である。近時のコモンロー、州法、および、用語法は、暗黙のうちに信託をこのように認識していると指摘される。アメリカ信託法におけるこの指摘が真実ならば、アメリカにおける信託の権利義務関係は、委託者、受託者、受益者という三者関係から、委託者、受託者、法主体化された信託、受益者という四者関係に移行し、信託財産についての権原は受託者ではなく法主体化された信託が保有すると考えるべきことになりそうである。信託の権利義務関係が、伝統的な構造から変貌し、日本の信託法の権利義務関係の今後の発展や立法にも影響を及ぼしうるのである。
20241030法学部研究発表会1東洋大学法学部(前・本学法学部教員)柴田 彬史 専任講師
そこでこのTrust as an entityの考え方を基礎づける理論や判決を研究するため、この考え方が用いられていると説明される3つの文脈を分析した。第一に、利益内容の異なる複数の受益者がいる場合に受託者がとるべき行動の判断基準を明らかにするという文脈である。第二に、保険会社が"被保険者として名指しされた信託"を受託者と区別して保険金の支払義務を回避するという文脈である。第三に、制定法等に基づいて財産権の権原保有者が賠償責任を負うことになる局面において、受託者が信託財産の権原保有者として責任を負うことを回避するという文脈である。第一の文脈におけるentityの語は、「法主体」というよりも、単に「法的存在」「法実体」等の訳語を用いるべきと思われる。しかし、第二および第三の文脈における議論は、信託に受託者とは別個の「法主体」性を求めており、この文脈におけるentityの語は厳密な意味において「法主体」と訳出しうると思われるのである。これらの3つの文脈における議論の間に特段の論理的な先後関係は見られないが、これらの議論は主として20世紀の最後の約20年で展開し、2020年においても健在である。これらの議論によって受託者の位置づけがどう変化するか、引き続き注目する必要がある。
なお、信託財産に法主体性を認めるという議論は日本の信託法においても四宮説によって主張された。しかし、アメリカにおけるTrust as an entityの考え方と四宮説とは2​​​​​​​​​点において異なる。第一に、四宮説において信託財産が独立した存在とされる理由は、「完全権」が帰属する何らかの主体を想定するためにはそう考えざるを得ないからというだけで(消極的)、信託財産(総体)自体が受託者とは異なる独立した法主体として扱われるという事実に基づく(積極的)のではない点である。第二に、四宮説は受託者の個人的要素を必須のものと考えたのに対し、Trust as an entityの議論の主たる文脈の1つは、受託者の個人的要素・固有財産による責任の排斥を意図するという点である。

【発表者2】清水 正博 教授

題目:EUにおける開業の自由とエストニア会社法の開業の自由に関する新規性と独自性

EUにおける開業の自由は、EU(ヨーロッパ連合)のヨーロッパ連合運営条約の4つの基本的自由(物品移動、開業、サービス、資本移動)の一つであり、「居住、営業の自由」とも訳される。
EU加盟国の私人は、開業を規定するヨーロッパ連合運営条約49条、54条を国内裁判所で権利として援用することができ、この開業の自由に関するヨーロッパ連合運営条約49条、54条は、加盟国の法令に優先して適用され、開業の自由に反する加盟国の規定は適用されない。
国際会社法の適用基準としての本拠地準拠法主義は現在、ヨーロッパ大陸諸国に浸透しており、ドイツ、ベルギー、フランス、ルクセンブルク、オーストリア、ポルトガル、スペイン等で採用されている。この本拠地準拠法主義がヨーロッパ大陸諸国に浸透するにあたり、いくつかの事件の判決を経ることになるが、EU加盟国において、いわゆる『会社法の競争』が生じることとなった。
20241030法学部研究発表会2清水 正博 教授
EU域内で設立地準拠法主義が適用されるのであれば、この『会社法の競争』は各加盟国は自国の会社法を魅力的なものとし、自国に会社の設立を呼び込もうとする流れということになる。
しかしながら、現実的には、EUにおいて株式会社法の規制緩和の競争は起こらなかったとされる。EU加盟国の株式会社法は、指令により、ほとんどの分野において調整が行われ、特定の加盟国が規制緩和を行って、株式会社の設立を自国に誘致する余地はほぼないと考えられていた。
そのような状況の中、エストニアにおけるe-residency(電子居住)システムにより、会社設立を容易にするインフラの提供と、会社の内部留保に対して課税を行わないという税制を用意することにより、エストニアは『会社法の競争』で優位に立つ、または立った可能性がある。まさにここに、エストニアにおける開業の自由に関する新規性と独自性があると考え、発表を行った。
加えて2014年からエストニアにおける「電子空間上の居住」をし、エストニアの電子サービスを無料で享受できる電子居住(e-residency)制度についての現状について発表した。
なお、2024年10月現在、全世界で電子居住者が118500人を超え、我が国からは、約3000人のエストニアの電子居住者が誕生している。 

<質疑応答の様子>

<お問い合わせ先>
部署:企画課
電話:04-7183-6517