CGU NEWS
2024.11.11
法学部
「第18回法学部研究発表会」開催報告
発表者と題目、発表要旨は以下の通りです。
【発表者1】東洋大学法学部(前・本学法学部教員)柴田 彬史 専任講師
題目:アメリカ信託法におけるTrust as an Entityの考えの動向について
信託の母法たる英米法における信託は概して2つの特徴がある。受託者が信託財産について権原を有すること、および、受託者は当該権原を受益者のために使うことである。
ところがアメリカ信託法の下では、これらの2つの点に影響を及ぼしうる考え方が登場している。信託を、信託財産(総体)から構成される法"主体"(Trust as an entity)と捉える考え方である。近時のコモンロー、州法、および、用語法は、暗黙のうちに信託をこのように認識していると指摘される。アメリカ信託法におけるこの指摘が真実ならば、アメリカにおける信託の権利義務関係は、委託者、受託者、受益者という三者関係から、委託者、受託者、法主体化された信託、受益者という四者関係に移行し、信託財産についての権原は受託者ではなく法主体化された信託が保有すると考えるべきことになりそうである。信託の権利義務関係が、伝統的な構造から変貌し、日本の信託法の権利義務関係の今後の発展や立法にも影響を及ぼしうるのである。
ところがアメリカ信託法の下では、これらの2つの点に影響を及ぼしうる考え方が登場している。信託を、信託財産(総体)から構成される法"主体"(Trust as an entity)と捉える考え方である。近時のコモンロー、州法、および、用語法は、暗黙のうちに信託をこのように認識していると指摘される。アメリカ信託法におけるこの指摘が真実ならば、アメリカにおける信託の権利義務関係は、委託者、受託者、受益者という三者関係から、委託者、受託者、法主体化された信託、受益者という四者関係に移行し、信託財産についての権原は受託者ではなく法主体化された信託が保有すると考えるべきことになりそうである。信託の権利義務関係が、伝統的な構造から変貌し、日本の信託法の権利義務関係の今後の発展や立法にも影響を及ぼしうるのである。
なお、信託財産に法主体性を認めるという議論は日本の信託法においても四宮説によって主張された。しかし、アメリカにおけるTrust as an entityの考え方と四宮説とは2点において異なる。第一に、四宮説において信託財産が独立した存在とされる理由は、「完全権」が帰属する何らかの主体を想定するためにはそう考えざるを得ないからというだけで(消極的)、信託財産(総体)自体が受託者とは異なる独立した法主体として扱われるという事実に基づく(積極的)のではない点である。第二に、四宮説は受託者の個人的要素を必須のものと考えたのに対し、Trust as an entityの議論の主たる文脈の1つは、受託者の個人的要素・固有財産による責任の排斥を意図するという点である。
【発表者2】清水 正博 教授
題目:EUにおける開業の自由とエストニア会社法の開業の自由に関する新規性と独自性
EUにおける開業の自由は、EU(ヨーロッパ連合)のヨーロッパ連合運営条約の4つの基本的自由(物品移動、開業、サービス、資本移動)の一つであり、「居住、営業の自由」とも訳される。
EU加盟国の私人は、開業を規定するヨーロッパ連合運営条約49条、54条を国内裁判所で権利として援用することができ、この開業の自由に関するヨーロッパ連合運営条約49条、54条は、加盟国の法令に優先して適用され、開業の自由に反する加盟国の規定は適用されない。
国際会社法の適用基準としての本拠地準拠法主義は現在、ヨーロッパ大陸諸国に浸透しており、ドイツ、ベルギー、フランス、ルクセンブルク、オーストリア、ポルトガル、スペイン等で採用されている。この本拠地準拠法主義がヨーロッパ大陸諸国に浸透するにあたり、いくつかの事件の判決を経ることになるが、EU加盟国において、いわゆる『会社法の競争』が生じることとなった。
EU加盟国の私人は、開業を規定するヨーロッパ連合運営条約49条、54条を国内裁判所で権利として援用することができ、この開業の自由に関するヨーロッパ連合運営条約49条、54条は、加盟国の法令に優先して適用され、開業の自由に反する加盟国の規定は適用されない。
国際会社法の適用基準としての本拠地準拠法主義は現在、ヨーロッパ大陸諸国に浸透しており、ドイツ、ベルギー、フランス、ルクセンブルク、オーストリア、ポルトガル、スペイン等で採用されている。この本拠地準拠法主義がヨーロッパ大陸諸国に浸透するにあたり、いくつかの事件の判決を経ることになるが、EU加盟国において、いわゆる『会社法の競争』が生じることとなった。
しかしながら、現実的には、EUにおいて株式会社法の規制緩和の競争は起こらなかったとされる。EU加盟国の株式会社法は、指令により、ほとんどの分野において調整が行われ、特定の加盟国が規制緩和を行って、株式会社の設立を自国に誘致する余地はほぼないと考えられていた。
そのような状況の中、エストニアにおけるe-residency(電子居住)システムにより、会社設立を容易にするインフラの提供と、会社の内部留保に対して課税を行わないという税制を用意することにより、エストニアは『会社法の競争』で優位に立つ、または立った可能性がある。まさにここに、エストニアにおける開業の自由に関する新規性と独自性があると考え、発表を行った。
加えて2014年からエストニアにおける「電子空間上の居住」をし、エストニアの電子サービスを無料で享受できる電子居住(e-residency)制度についての現状について発表した。
なお、2024年10月現在、全世界で電子居住者が118500人を超え、我が国からは、約3000人のエストニアの電子居住者が誕生している。