CGU NEWS
2023.11.01
法学部

「第17回法学部研究発表会」開催報告

10月25日(水)、「第17回法学部研究発表会」にて法学部2名の教員による研究発表が行われました。
発表者と題目、発表要旨は以下の通りです。

【発表者1】大島 幸 講師

題目:英語読解におけるストラテジー指導の効果について:マルチモーダル・アプローチを用いて
   ―Effectiveness of a Multimodal Approach During Reading Strategy Instruction―

 本発表では、2021年度春学期、英語初級レベルの日本人大学生20名を対象に行った、Zoomを使ったライブ型オンライン授業における研究結果を報告した。COVID-19の流行に伴い、2020年度より日本の大学でもオンライン授業が急遽導入された。しかし、教師が目の前で支援できる対面環境でさえ、授業についていくのが困難な初級レベルの学習者にとって、オンライン環境での学びは容易ではなかったはずである。

 本研究では、より明解かつ効果的な指導を実現するために、リーディング・ストラテジー指導とマルチモーダル・アプローチを取り入れた。前者は、正確な文章読解に役立つ様々なストラテジーを学習者が習得するよう指導することである。例えば、文章から特定の情報を探す「スキャニング(scanning)」、理解を助けるため下線を引いたりメモを付したりする「アノテーション(annotation)」、自分の理解に誤りが無いか確認する「モニタリング(monitoring)」などがある。先行研究において、リーディング・ストラテジー指導には、①読解力の向上、②読解に対する自己効力感(reading self-efficacy)の向上、③読解への不安感(reading anxiety)の減少といった効果があると指摘されている。後者は、コミュニケーションを形成する言語以外の要素(ジェスチャー、目線、姿勢など)を考慮するアプローチを指す。
 上記2点を組み合わせた新たな試みとして、授業では、教師の顔を映すカメラに加え、教師の手元を映すカメラを追加設置した。手元を映すカメラには学生と同じ教科書を映し出し、教師が下線を引いたり、「ここ」と指し示したりする様子が視覚的に伝わるようにした。併せて、文章中の場所を示す表現 “Paragraph X, Line Y (X段落、Y行目)” を導入し、正誤問題などの解答の際には、①先に問題を頭に入れ、②問題に対応する情報を文章から探し出し、③下線を引き、④ 「Paragraph 2, Line 3に情報があるからTrue(正)だ」のように、文章中の情報を根拠に解答する活動を繰り返した。

 学生へのアンケート、グループ及び個別インタビューの結果、本指導法は、学生がオンライン授業中にどこを見るべきかを視覚化できるだけでなく、リーディング・ストラテジー使用の促進や授業理解の向上にも資することが示唆された。また、学生から「英語読解力向上を実感した」との報告もあった。

 対面授業が再開された現在、本研究結果は、対面環境でも生かせるものと思料する。オンライン環境ではデータ収集上の制約が否めなかったため、対面環境でより客観性・妥当性を担保した研究を行い、引き続き、初級レベルの学習者の英語読解力向上に資する指導法を探求していきたい。

【発表者2】山口 誠一 講師

題目:「数理・データサイエンスにおける概念の教育について」

 大学における数学教育では、新しい概念を数学的な文脈の中で形式的に紹介した後、定理の記述およびその証明を行い、そしてほとんど決まった手続きで解ける練習問題などを解かせるだけ、というような形の教育がある。数学をただ純粋に数学として学ぶにはそれでよいのかもしれないが、実践的な文脈の中で数学的な概念を活用できる能力を育成するには、そのような形の教育では十分とは言い難い。実際、多くの大学で行われている微分積分学の授業や、そこで使用されているテキストに対し、学習者が新しい概念を学ぶ必要性を認識できるような実践的な文脈が無いことや、形式的で厳格な数学の教育だけで数学の応用力が身に付くはずだという教育者側の思い込み等が指摘されてきた。

 同じようなことが統計やデータ分析の教育にもある。統計やデータ分析は、現実の世界の課題や問題解決の中で発展してきた領域であるにも関わらず、そのような背景はほとんど無視され、社会への応用や実践を謳いながら厳格な数学にもとづいた数理統計教育に偏重していたり、パターン分けされたデータ分析の手続きを教えるだけというような教育方法が問題視されてきた。
 このような中で、数学、統計、データ分析を現実の文脈の中で活用できるような教育方法が様々に研究されてきた。それらの教育研究の分野での重要な視点は、公式の使い方や手続きの習得よりも概念の理解に重点をおくべきということである。さらに、課題や問題解決など現実の文脈の中で数学や統計を学ぶことが強く推奨されている。
 
 本発表では、上記のような数学、統計、データ分析の教育における問題を指摘し、以下のような概念理解に重点をおいた発表者らの教育研究の成果を示した。まず、工学系の学部生が微分積分学の概念を学ぶ際に適した現実的な文脈を用いた教育方法を紹介した。次に、統計の概念理解におけるシミュレーションの有用性を示すため、例として中心極限定理の概念理解を促すシミュレーション(VUstat)を実演し、実際にシミュレーションが学習内容の理解に役立ったという授業実践での受講生へのアンケート結果を示した。
 
 また、本学の授業科目「データサイエンス」において、問題解決の中で統計、データ分析、生成AIを教えるという発表者が行った授業実践例を紹介した。最後に、数理・データサイエンス教育強化拠点コンソーシアムが2020年4月に公開した数理・データサイエンス・AI(リテラシーレベル)モデルカリキュラムに記載されている学修目標に対し、2023年度前期の「データサイエンス」受講の前後で学生の意識がどれだけ向上したのかを示した。

<質疑応答の様子>

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